前回の調査では、神奈川のアマチュア吹奏楽団のレパートリーを集計し、吹奏楽オリジナル曲が全体の約36%を占めることをお伝えしました。今回は同じデータから「よく演奏される作曲家」と「特化型楽団の台頭」という2つの観点を掘り下げます。
最もよく演奏される作曲家は誰か
28団体・71演奏会・416曲を集計したところ、アルフレッド・リードと久石譲が各16演奏会で同率トップという結果になりました。
この2人が並ぶというのは、なかなか興味深い組み合わせです。
アルフレッド・リードはアメリカの作曲家で、吹奏楽のために数多くの作品を書き残しました。「アルメニアン・ダンス」「エル・カミーノ・レアル」「オセロ」など、日本の吹奏楽コンクールで長年演奏され続けてきた名曲を持ち、吹奏楽界では「王道中の王道」とも言える存在です。一方、久石譲はスタジオジブリ作品の音楽を手がけた作曲家として、音楽ファン以外にも広く知られています。「となりのトトロ」「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」……誰もが一度は耳にしたことのある曲の数々が、吹奏楽でも頻繁に演奏されているのです。
3位以下には真島俊夫(9演奏会)、フィリップ・スパーク(8演奏会)、清水大輔・アラン・メンケン(各7演奏会)と続きます。真島俊夫は「三つのジャポニスム」などのオリジナル作品のほか、編曲作品では「宝島」「オーメンズ・オブ・ラブ」が吹奏楽の定番として広く演奏されています。スパークはイギリス出身の現代作曲家、清水大輔は近年の吹奏楽コンクールで注目を集める作曲家、メンケンはディズニー映画音楽の第一人者です。

コンクール系の作曲家と、映画・アニメ系の作曲家が混在するランキングは、現代の市民楽団のレパートリーの幅広さを映し出しています。
「定番」が崩れ始めている──特化型楽団の台頭
かつてのアマチュア吹奏楽団といえば、吹奏楽オリジナル曲を中心に、クラシックの編曲作品を加えたプログラムが標準的でした。コンクール文化の影響が強く、「この曲は上手く演奏できれば評価される」という共通の物差しが存在していたからです。
しかし今回の調査データを見ると、その「定番」から意識的に離れた楽団の存在が目を引きます。
スタジオジブリ作品のみでプログラムを構成する楽団、ゲーム・アニメ音楽だけを演奏する楽団、クラシックの大曲(ベートーヴェンの交響曲やラヴェルのピアノ協奏曲など)に特化する楽団、そしてジャズ・ラテン・ポップスに絞り込んだYPWOのような楽団──どれも、従来の吹奏楽団のイメージとは一線を画す存在です。
こうした特化型楽団が生まれた背景には、コンクールを目指さない「コンサート型」楽団の増加があると考えられます。動機はさまざまで、「演奏者自身が楽しみたい曲を演奏したい(コンクール曲ではなく)」という内側からの動機もあれば、「聴きに来てくれるお客さんに楽しんでもらえる曲を選びたい」という外側への意識もあります。いずれにせよ、「評価される曲」より「好きな曲・届けたい曲」を選ぶ発想への転換が、レパートリーの多様化を後押ししているのかもしれません。

まとめ
神奈川の吹奏楽団で最もよく演奏される作曲家はアルフレッド・リードと久石譲(各16演奏会)。吹奏楽の巨匠とジブリの音楽家が並ぶこの結果は、コンクール文化に根ざした「定番」と、幅広い聴衆に届けるための「親しみやすさ」が共存する現在の市民楽団の姿を象徴しているようです。
ジャンルへの特化、個性の打ち出し、聴衆への意識──アマチュア吹奏楽団のレパートリーは、静かに、しかし確実に多様化しています。
