神奈川県内のアマチュア吹奏楽団はどんな曲を演奏しているのか。YPWOではAIを活用して県内の演奏会情報を収集・分析する調査を行いました。今回はその結果を公開します。
調査の概要と限界
今回の調査では、ウェブ上で公開されている演奏会情報をもとに202団体をリストアップしました。ただし、演奏会の開催が確認できた団体はその一部に留まり、さらにプログラム(演奏曲目)まで取得できたのは28団体にとどまりました。
手作業で情報を補えばより多くのデータを揃えることはできますが、この調査はあえてAI完結型で進めています。人手を介さず、AIが公開情報から自律的に収集・整理できる範囲を探ることも、調査の目的のひとつです。
集計対象の演奏会は主に2025〜2026年に開催されたもので、一部の団体については2023〜2024年の過去データも含んでいます。ただし、神奈川全体の傾向を正確に反映しているとは言えません。また、ウェブ上で公開されているプログラム情報をもとにしているため、演奏会で実際に演奏されたすべての曲が含まれているわけではありません。特にアンコール曲は事前に公開されないことが多く、データには反映されにくい点にご留意ください。あくまで「AIが公開情報から読み取った一断面」として受け取っていただければと思います。
約3分の1が「吹奏楽オリジナル」
28団体・71演奏会・416曲を集計した結果、最も多かったカテゴリは吹奏楽オリジナル曲で全体の36%(149曲)でした。

「吹奏楽オリジナル」とは、吹奏楽のために書き下ろされたクラシック系の作品群です。コンクール文化を背景に、多くの団体が長年にわたってこうした作品を演奏してきた歴史が、この数字に表れています。
一方、ポップス・J-POPと映画・ミュージカルを合わせると39%。「聴いたことのある曲」が吹奏楽オリジナルとほぼ同じ割合で演奏されていることになります。神奈川の市民楽団の演奏会は、クラシック一辺倒ではありません。
対照的に、ジャズ・ラテンは5%(22曲)と最も少ないカテゴリのひとつでした。
最も演奏されている曲は
複数の団体で演奏された曲のうち、3団体以上が取り上げた曲は次の4曲でした。
| 曲名 | カテゴリ | 演奏団体数 |
|---|---|---|
| 序曲「春の猟犬」 | 吹奏楽オリジナル | 4団体 |
| シンフォニア・ノビリッシマ | 吹奏楽オリジナル | 3団体 |
| パリのアメリカ人 | クラシック編曲 | 3団体 |
| 音楽祭のプレリュード | 吹奏楽オリジナル | 3団体 |
| たなばた※ | 吹奏楽オリジナル | 3団体 |
| ディズニー・ファンティリュージョン! | 映画・ミュージカル | 3団体 |
※「The Seventh Night of July」名義での演奏を含む
吹奏楽経験者にはおなじみの作品が並びます。一方、2団体が演奏した曲は43曲にのぼり、ここには「カーペンターズ・フォーエバー」「リトル・マーメイド・メドレー」「紅蓮華」「ルパン三世のテーマ」と、吹奏楽の定番からディズニー、ジャズ、アニメまで多彩な曲名が並びます。市民楽団のレパートリーの幅広さがそのまま表れた結果です。
ひとつ気になるのは、吹奏楽ファンなら誰もが知る「宝島」「オーメンズ・オブ・ラブ」(いずれも和泉宏隆作曲・真島俊夫編曲)がランキングに登場しないことです。この2曲は750曲のデータ全体でも各1演奏会しか確認できませんでした。
理由として考えられるのは、アンコール曲として演奏されることが多いという慣習です。「宝島」「オーメンズ・オブ・ラブ」は短くて盛り上がり誰もが知っている──アンコールに最適な条件が揃っています。アンコール曲は演奏会の直前まで非公開にされることが多く、ウェブ上の告知情報を収集するこのデータには反映されにくい構造があります。「調査の概要と限界」でも触れているとおり、このデータは「正式プログラムとして公開された曲」の集計であり、アンコールの定番曲は系統的に見えにくくなっています。実態の演奏頻度はランキングが示す以上に高い可能性があります。
演奏会のスタイルは二極化している
各演奏会のジャンル構成を見ると、大きく二つのタイプに分かれていました。

※各演奏会のプログラムを見て、吹奏楽オリジナル曲が半数以上なら「オリジナル中心」、ポップス・映画・アニメ・ジャズなどの合計が半数以上なら「ポップス・映画中心」、どちらにも偏らないものを「バランス型」として分類しています。
ほぼ半々です。「吹奏楽の演奏会はクラシック系でとっつきにくい」というイメージがあるとすれば、それは半分しか当てはまりません。残りの半分は、映画音楽やJ-POPなど誰もが知っている曲で構成されています。
YPWOの立ち位置
参考までに、YPWOの3回の演奏会(30曲)を同じ基準で分類すると、こうなります。
| カテゴリ | YPWO(30曲) | 神奈川平均(416曲) |
|---|---|---|
| ポップス・歌謡曲 | 43% | 20% |
| ジャズ・ラテン | 33% | 5% |
| 映画・ミュージカル | 23% | 19% |
| 吹奏楽オリジナル | 0% | 36% |
| クラシック編曲 | 0% | 10% |
神奈川全体で約3分の1を占める「吹奏楽オリジナル」を一切演奏せず、ジャズ・ラテンの比率は県平均の6倍以上という結果になりました。
Take the A Train、リベルタンゴ、スペイン──こうしたレパートリーは、今回集計した71演奏会・416曲の中ではほとんど確認されていません。
この結果から見えてくるのは、単なる好みの違い
ではなく、明確なポジションの差です。
なお、一般的な吹奏楽の文脈では、ジャズやラテンも広く「ポップス」に含めて語られることが多いですが、本調査ではレパートリーの傾向をより細かく捉えるため、これらを区分して集計しています。
その上で見ると、神奈川県内のアマチュア吹奏楽団は、「吹奏楽オリジナル中心」と「ポップス・映画中心」という二極に大きく分かれていますが、YPWOはそのいずれとも異なる位置にあります。
特に、ジャズやラテンを演奏会の中心に据えている点において、この領域は今回のデータ上ほぼ空白に近い状態です。
少なくとも本調査の範囲では、同様の方向性を明確に打ち出している団体は確認できませんでした。
こちらも参照ください → YPWOラボ | #001 「ポップス専門」吹奏楽団を名乗る理由
