#025 YPWOの選曲の裏側──なぜ観客アンケートから始めるのか

多くのアマチュア吹奏楽団では、選曲は団員の「演奏したい曲」から始まります。YPWOはその逆で、来場されたお客様のアンケートから選曲が始まります。演奏会の主役はステージではなく、客席にいる。そう考えているからです。

この考え方から、秋の「Autumn Session」はジャズ特集で固定し、春の「Spring Concert」は毎年テーマを変えるという形が生まれ、選曲は演奏会の約1年前から動き始めます。この記事では、年2回の定期演奏会のプログラムが「誰のために」「どう」決まっていくのか、その裏側を紹介します。

団員起点の選曲と、観客起点の選曲は何が違うのか

「この曲をやってみたい」「コンクールで聴いて感動した」。団員の声を集めて話し合いで決めていく選曲は、演奏する側にとって自然で楽しいやり方です。ただ、「演奏したい曲」を積み重ねていくと、吹奏楽オリジナル曲やコンクール曲が中心になりやすく、演奏者にとってやりがいのある曲が、聴衆にとって親しみやすい曲とは限りません。

YPWOが起点をお客様のアンケートに置いているのは、この「演奏者と聴衆のズレ」を最初から避けるためです。両者を並べると、違いがはっきりします。

項目団員起点の選曲YPWO(観客起点)の選曲
選曲の出発点団員の「やりたい曲」観客アンケートの「聴きたい曲」
中心になりやすい曲吹奏楽オリジナル曲など、演奏者が挑戦したい曲お客様が知っているであろう曲
たたき台を作る人団員の話し合い事務局(アンケート分析から)
最終的な判断基準演奏する側のやりがい聴きに来たお客様が楽しめるか

なぜYPWOは観客アンケートから選曲を始めるのか

演奏会のたびに、来場されたお客様にアンケートへのご記入をお願いしています。「聴きたいジャンルは?」「次回演奏してほしい曲は?」。自由に書いてもらったこの回答が、次の演奏会を考える最初の材料になります。

集まる回答は実に多種多様です。思い出の曲、好きなアーティストの代表曲、ある世代にはドンピシャで刺さる一曲。人によってバラバラで、正直まとまりがないこともあります。でも、それがまた面白いところで、広く親しまれている曲と少しマニアックな曲をどう組み合わせるか、毎回頭を悩ませながら楽しんでいます。

ただし、票を数えて上位から並べる人気投票ではありません。回答からは、どの世代のお客様が多いのか、どんなジャンルや雰囲気が求められているのか、挙げられた一曲の背後にどんな好みがあるのかまで読み取っていきます。プログラム検討の起点は、メンバーの意見ではなく、このアンケートの分析です。

なぜ秋はジャズで固定し、春は毎年テーマを変えるのか

その分析を続けるなかで、毎回はっきり見えてくる傾向があります。「ジャズを聴きたい」という声の多さです。そこで秋の演奏会は「Autumn Session」と題し、スウィング、モダンジャズ、フュージョンなど、ジャズに詳しくないお客様にも楽しんでいただける幅でジャズ特集を組んでいます。

一方、春の「Spring Concert」は、ジャズ以外のジャンルや切り口で特集する回です。映画音楽、ラテン音楽、ブリティッシュロック、アーティスト特集など、その年ごとにテーマを絞り、ゲストミュージシャンの個性に合わせて軸を調整することもあります。

つまり、アンケートで毎回はっきり見える「ジャズ」という需要には秋の固定枠で応え、年ごとに移り変わる多様な声は春の可変枠で試す。「秋=ジャズ」「春=テーマ可変」という使い分けは、この2種類の声に別々の器を用意した結果です。

選曲は1年がかり──タイムラインの全体像

個々の工程に入る前に、全体の流れを押さえておきます。

  • 約1年前:コンセプトの検討を始め、ゲストミュージシャンの日程を確保する
  • 約6か月前:チラシのデザインを完成させる。年2回開催のYPWOでは、ちょうど1つ前の演奏会の時期にあたる
  • 約4か月前:プログラムを最終確定し、以降は本番に向けて楽曲を作り込む

チラシを約6か月前に仕上げるのには理由があります。前回の演奏会のパンフレットに次回のチラシを挟み込み、MCでも次回の予告をする。「次はこんな演奏会をやります」と客席に直接お伝えできる、これがお客様への最初の告知であり、次回来場への橋渡しになっています。

コンセプトとゲストは、なぜセットで決めるのか

大枠が決まると、その回ごとのコンセプトを練り始めます。「今回はジャズ寄りの声が特に多い」「ラテン系を求めている方が増えた」「あのアーティストへの関心が高い」。アンケートの傾向から、テーマや方向性が見えてきます。

コンセプトが固まると、それに合うゲストミュージシャンの候補も自然と絞られます。人気のあるプロミュージシャンはスケジュールが早々に埋まるため、ゲストへの声かけは演奏会の約1年前から始めます。コンセプトとゲストをセットで考えるのが、YPWOの流儀です。

アンケートに書かれていない曲を、どうやって選ぶのか

コンセプトが決まったら、具体的な選曲に入ります。大前提として、選ぶのはお客様が知っているであろう曲です。初めて聴く曲ばかりでは、お客様は曲そのものに耳を傾ける時間が増えます。一方で、知っている曲なら、演奏やアレンジ、ゲストとの共演といった演奏会ならではの部分を、より楽しんでいただきやすくなります。「あ、この曲知ってる」「懐かしい」という瞬間が積み重なることで、演奏会全体が記憶に残るものになるのです。

アンケートに書かれた曲をそのまま取り入れることも多くあります。ただ、そこで終わらないのがYPWOの選曲のいちばん深い部分です。書かれた一曲を前に、「この曲だけを聴きたいのだろうか」「この曲の雰囲気が好きなのではないか」「このアーティストが好きなのではないか」と発想を広げ、アンケートに名前は出ていないけれど喜んでもらえそうな曲まで候補に加えていきます。リクエストの受付ではなく、期待の先読み。お客様の期待に応えながら、少し先へ連れていく感覚です。

プログラム案は誰が作り、どう変わっていくのか

初期のプログラム案を作るのは事務局です。アンケートの分析からコンセプト設定、曲目の候補出しまで、まず事務局がたたき台を作り、ディレクターやメンバーに共有します。「この曲は難しすぎる」「この曲は盛り上がりに欠けるかも」といった演奏者の視点が入り、机上の案が磨かれていきます。

案の調整が済んでも、まだ終わりではありません。楽譜を購入し、実際にメンバーで音を出してみて初めてわかることがあるからです。「音源で聴いた印象とアレンジが全然違う」「演奏していてどうも楽しくない」。そうした理由で、曲目が入れ替わることもあります。自分たちが楽しんで演奏できない曲は、聴いているお客様にも伝わってしまう。演奏者として楽しめるかどうかも、最終的な判断基準のひとつです。

役割を整理すると、事務局がアンケートの分析・コンセプト設定・初期案づくりを担い、ディレクターとメンバーが演奏面からブラッシュアップし、実際の音出しで最終確認する。プログラムは事務局だけで決まるのではなく、この三段階を通ってはじめて完成します。こうしてプログラムは演奏会の約4か月前に最終確定し、以降は本番に向けて楽曲を作り込んでいきます。

結局、演奏会の選曲は誰のためか

YPWOの選曲をひとことで言えば、「お客様のアンケートに始まり、アンケートに書かれていない期待まで読んで完成する」プロセスです。メンバーが演奏したい曲でも、コンクールで評価される曲でもなく、聴きに来てくれたお客様が楽しめる曲を選ぶ。演奏会の主役は、客席にいると考えているからです。

だから私たちにとってアンケートは、お客様の感想ではありません。次の演奏会の設計図なのです。

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