#016 全国の吹奏楽団でよく演奏される曲──3年分のデータで見えた”定番”と”流行”

全国を対象に収集した615演奏会・3,279曲を分析した結果、総合1位はアルメニアン・ダンス パート1(35回)でした。前回記事で1位だった「春の猟犬」はデータ増加の影響で14回・18位タイに後退しました。年別にデータを読み解くと、「銀河鉄道999」の急騰と急落や2026年の「嵐」の浮上など、演奏曲にも流行らしき動きが見えてきます。

今回の調査について

前回の関東5都県版(YPWOラボ008)(168演奏会・984曲)から、調査範囲と方法の拡充によってデータが約3.3倍に増えました。楽団公式サイトからの演奏会・プログラム自動収集、演奏会チラシ画像をAIで読み取って曲名を抽出する手法の追加、データクリーニングによる精度向上などが加わった結果です。

対象は全国1,484楽団マスターから得られた演奏会情報ですが、データの約86%が関東圏の楽団由来という地理的な偏りがあります。「全国の吹奏楽団を代表する数字」ではなく、「現時点で収集できた楽団群の傾向」として読んでいただければと思います。

また、年別ランキングの回数は各年100〜200演奏会程度の小さいサンプルから集計しているため、1団体の選曲の有無でランキングが大きく動きます。「増えた・減った」という変化が実態の流行を反映しているのか、それとも偶然の偏りなのかを慎重に見極める必要があります。

ジャンル比率──吹奏楽オリジナルが約4割で最多

ランキングの集計対象は、収集した3,279曲のうち2回以上演奏された2,427件です(1回だけ登場した曲は除外)。1回限りの曲はその回かぎりの選曲で「よく演奏される曲」とは言えず、表記の揺れや誤読も残りやすいため、複数の団体・演奏会で繰り返し選ばれた曲に絞ることで、傾向として意味を持つ数字になります。この2,427件はすべてジャンルを判定済みで、最も多いジャンルは依然として吹奏楽オリジナルの40.4%でした。

カテゴリ比率
吹奏楽オリジナル40.4%
映画・ミュージカル18.8%
ポップス・J-POP15.8%
クラシック編曲13.8%
ゲーム・アニメ5.9%
行進曲3.1%
ジャズ・ラテン2.0%

前回の神奈川版が36%、関東5都県版が42.2%でした。全国化した今回は40.4%で、いずれも4割前後で安定しています。また、ポップス・J-POPと映画・ミュージカルを合わせると約35%。身近な曲は全体の3分の1強を占めています。

年別でわかること──2023〜2026の変遷

まずサンプル数を把握する

年別ランキングを読む前に、各年の収録件数を確認しておく必要があります。

収録曲数(延べ)ユニーク曲数
2023年534件277種類
2024年541件293種類
2025年654件306種類
2026年645件304種類

演奏会情報の収集件数自体は2026年に大幅に増加していますが、そのうち曲目まで取得できた件数(上の表の数字)は各年ほぼ同規模です。そのため年別ランキングの比較には一定の意味があります。なお2026年は記事執筆時点(2026年6月)までの途中集計である点にご留意ください。とはいえ前述のとおり各年のサンプルは小さいので、数字はあくまで大きな傾向を読む参考値としてご覧ください。

2023年──「銀河鉄道999」が突出

2023年のトップは銀河鉄道999(9回)。吹奏楽オリジナルが上位を埋める中、ポップス系の曲が単独首位に立ちました。

順位曲名カテゴリ回数
1銀河鉄道999ポップス・J-POP9
2アルメニアン・ダンス パート1吹奏楽オリジナル8
2コンパス・オブ・ユア・ハート映画・ミュージカル8
4さくらのうた吹奏楽オリジナル7
5吹奏楽のための第一組曲吹奏楽オリジナル6

同年2月に死去した漫画家・松本零士氏の訃報との関連を指摘する声もありますが、元々定番曲でもあり、サンプル数の限界も踏まえると、背景要因の一つとして考えられる程度です。

2024年──ピークを打つ

翌2024年、銀河鉄道999はさらに11回に増えて1位を維持しました。同時にマゼランの未知なる大陸への挑戦が8回に急上昇しましたが、翌年には0回に急落しています。

順位曲名カテゴリ回数
1銀河鉄道999ポップス・J-POP11
2シンフォニア・ノビリッシマ吹奏楽オリジナル9
3マゼランの未知なる大陸への挑戦吹奏楽オリジナル8
4アルメニアン・ダンス パート1吹奏楽オリジナル7
4さくらのうた吹奏楽オリジナル7

2025年──「流行の空白年」

2025年は、特定の曲への集中が見られなかった年として対比できます。ジュビリー・プレリュード、組曲「仮面舞踏会」、昭和歌謡コレクション、ナポレオンの影の4曲が12回で同着1位に並び、ジャンルも吹奏楽オリジナル・クラシック編曲・ポップスとバラバラでした。

順位曲名カテゴリ回数
1ジュビリー・プレリュード吹奏楽オリジナル12
1組曲「仮面舞踏会」クラシック編曲12
1昭和歌謡コレクションポップス・J-POP12
1ナポレオンの影吹奏楽オリジナル12
5シンフォニア・ノビリッシマ吹奏楽オリジナル9

銀河鉄道999は2回に急落しました。2023〜2024年の集中が一服し、2026年に新たな動きが出るまでの「流行の狭間」とも読めます。選曲の分散はむしろ吹奏楽の地力であり、特定の流行がない年も、定番曲群がランキングを支え続けています。

2026年──嵐の楽曲が急浮上、Mrs. GREEN APPLEも登場

2026年のトップはジャパニーズ・グラフィティXIV「A・RA・SHI」(12回)。嵐は2020年12月31日に活動を休止し、2026年5月31日に活動を終了しました。活動終了を受けて改めて取り上げる楽団が増えた可能性がありますが、因果関係は確認できていません。なお、この楽曲は2023年時点でも5回演奏されており、全期間を通じて継続的に選ばれてきた曲でもあります。

もう一つ注目されるのは、ライラック(Mrs. GREEN APPLE)が8回・5位に入ったことです。2024年リリースの楽曲が、わずか2年ほどで年間ランキング上位に入ってきたことになります。吹奏楽では定番曲が長く演奏され続ける傾向がある中で、近年のヒット曲がこれほど短期間で上位に入ってくるのは興味深い動きで、最近のヒット曲が演奏会プログラムに浸透していくスピード感がうかがえます。

順位曲名カテゴリ回数
1ジャパニーズ・グラフィティXIV A・RA・SHIポップス・J-POP12
2アルメニアン・ダンス パート1吹奏楽オリジナル11
3たなばた(The Seventh Night of July)吹奏楽オリジナル9
3春の猟犬吹奏楽オリジナル9
5ライラックポップス・J-POP8
5オリエント急行吹奏楽オリジナル8

定番と流行をどう読むか──データの限界を踏まえて

年別ランキングで比較的はっきり読み取れるのは、特定の年に突出して増え、翌年以降に急落した曲の存在です。

急騰・急落した曲2023202420252026
銀河鉄道9999回11回2回4回
マゼランの未知なる大陸への挑戦2回8回0回1回

銀河鉄道999は2024年をピークに急落しました。マゼランは2024年のみに集中し、その後ほとんど見られなくなっています。ある社会的な契機や話題が演奏会の選曲に波及し、翌年には引く──という流れが起きている可能性があります。

今回のデータからは、社会的な出来事が選曲に影響している可能性を示唆する事例が見られました。そしてそのブームは長くは続かないらしい──というのが現時点での観察です。

一方で、流行曲が入れ替わる中でも「アルメニアン・ダンス パート1」「シンフォニア・ノビリッシマ」「春の猟犬」のような曲は複数年にわたって上位近辺に現れます。流行が波だとすれば、定番曲はその下にある地盤のような存在と言えるかもしれません。

作曲家ランキング──1970〜2000年代が中核を支える

演奏曲に対応する作曲家を集計すると、1位はフィリップ・スパーク(82回)、2位はアルフレッド・リード(71回)でした。

順位作曲家演奏件数
1フィリップ・スパーク82回
2アルフレッド・リード71回
3真島俊夫45回
4久石譲40回
5樽屋雅徳36回
6酒井格28回

スパーク・リードはいずれも1970〜2000年代に日本の吹奏楽界で広く演奏されるようになった作曲家です。3位以下の日本人作曲家(真島俊夫・樽屋雅徳・酒井格)も、コンクール文化を背景に支持を固めてきた面々です。市民吹奏楽団の定番レパートリーは、半世紀近くにわたって培われた作品群が今なお中核を担っていることがうかがえます。

4位に久石譲(40回)が入っているのは前回記事と同様です。ジブリ作品を中心とした映画音楽の作曲家として、吹奏楽との親和性が高い方です。12位にはアラン・メンケン(18回)がランクインしており、映画・ミュージカルカテゴリの厚みを支えています。

前回の関東5都県版ではリードが首位でしたが、全国化でスパークが上回りました。サンプル数の変化によるものであり、両者は長年にわたって吹奏楽界の定番作曲家として並び立つ存在です。

地域差の片鱗──近畿は少し違う(参考値)

今回の全国化で近畿のデータも一部含まれるようになりました。ただしサンプル数は205件と全体の6%程度で、統計的に確実なことは言えません。あくまで参考値としてご紹介します。

順位曲名カテゴリ回数
1Another Day of Sun映画・ミュージカル9
2アルセナール吹奏楽オリジナル7
2マードックからの最後の手紙吹奏楽オリジナル7
2大仏と鹿吹奏楽オリジナル7
2吹奏楽のための交響的素描「オセロ」吹奏楽オリジナル7

1位の「Another Day of Sun」(映画『ラ・ラ・ランド』)は関東では20位圏外の曲です。また「大仏と鹿」(酒井格)が2位タイに入っています。作曲者の酒井格は大阪府枚方市の出身で、奈良(東大寺の大仏・奈良公園の鹿)を題材にしたこの作品が、同じ関西圏でよく演奏されていることがうかがえます。

地域の文化圏と作曲家の出身地が結びついて選曲に影響するのか──関西以西のデータが充実してきたときに改めて分析したい点です。

データが積み上がるほど、見えてくるものがある

今回の分析は、収集開始からまだ数ヶ月で、年別に追えるのは3〜4年分にとどまります。

それでも「銀河鉄道999が2024年をピークに急落した」「2026年にA・RA・SHIの演奏回数が増加した」という動きは確認できました。これが今後5年・10年と蓄積されていけば、「2020年代の市民吹奏楽団は何を演奏していたか」を将来的に振り返るための基礎資料になります。吹奏楽連盟や業界団体でも継続的にこの種の調査が公開されているわけではないため、同じ方法で毎年収集を続けることにそれ自体の意義があります。

現段階でのデータが示すのは、確定した「全国像」ではなく「今後検証すべき仮説の集合」です。「社会的な出来事が選曲に影響する可能性がある」「流行はある年に集中して翌年引く」といった観察も、来年・再来年のデータが積み重なってはじめて仮説として強度が増します。

YPWOはこのランキングの中でどこにいるか

今回の集計対象楽団を選曲傾向で分類すると、バランス型(29%)・吹奏楽オリジナル特化型(26%)・クラシック編曲重視型(17%)・エンタメ型(16%)・ポップス・J-POP重視型(13%)の5タイプに分かれました。

YPWOが属するのは「ポップス・J-POP重視型」の13%です。全国でも少数派の選曲スタイルですが、裏を返せば、ランキング上位を埋める吹奏楽オリジナルや映画・ミュージカルとは明確に差別化された立ち位置でもあります。

YPWOの志向は、流行の速さを追うことよりも「世代を超えて、皆が知っている曲を届ける」ことにあります。シニアの方々から若い世代まで、昭和歌謡から現代のヒット曲までを並べて演奏する――その共通言語としてのポップスを大切にしたい、という立ち位置です。

横浜でポップス中心の吹奏楽を一緒に演奏したい方は、メンバー募集ページもご覧ください。


※本記事の集計は615演奏会・3,279曲を対象とし、ジャンル分析は2回以上演奏された2,427件を対象としています(2026年6月時点)。

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