#008 関東5都県に広げたら、むしろYPWOレパートリーの異質さが際立った話

結論から言うと、範囲を広げてもレパートリーの傾向はほとんど変わりませんでした。むしろ、エリアが広がるほどYPWOの立ち位置がより鮮明になりました。神奈川のデータで既に見えていたことが、関東全体でも同じように確認できた、というのが正確なところです。

神奈川のアマチュア吹奏楽団の演奏傾向を以前の記事でお伝えしました(#006#007)。今回は同じ分析を関東5都県──神奈川・東京・埼玉・千葉・茨城──に拡大し、「範囲を広げると何が変わるのか」を検証しました。

データについて: 第7回までの記事は2025年4月時点の調査データ(神奈川71演奏会・416曲)をもとにしています。今回から、その後も収集・整理を続けた最新データ(神奈川62演奏会・393曲、関東全体168演奏会・984曲)に基づいています。数字が前回記事と異なる場合はこのデータ更新によるものです。

2026年5月の数値更新について: 公開時点(2026年5月)に「関東185演奏会・1,051曲」と記載していましたが、その後の点検で、別の概要ページが同一公演を二重に登録していたケースや、吹奏楽団ではない室内アンサンブルが集計に混ざっていたケースが見つかりました。これらを整理して再集計し、現在の「関東168演奏会・984曲」に修正しています。記事の結論や主要なランキング順位(春の猟犬1位・たなばた2位・A.リード首位など)は変わりませんが、各数値は精緻化しています。

調査の規模──実質は「神奈川+東京」の分析

神奈川のみの調査(62演奏会・393曲)に、東京・埼玉・千葉・茨城のデータを加えたところ、168演奏会・984曲に拡大しました。ただし、神奈川が全体の40%(62演奏会・393曲)、東京が39%(67演奏会・388曲)を占めており、実質的には「神奈川+東京中心の分析」です。埼玉・千葉・茨城はデータが限られており、地方の特色は過小評価されている可能性があります。「関東全体の傾向」というより「神奈川・東京を中心とした広域の傾向」として読んでいただく方が正確です。

※関東7都県のうち群馬・栃木については、AIによる公開情報収集の段階で演奏会情報を取得できなかったため、今回の分析対象から除外しています。

神奈川 vs 関東5都県:ジャンル比率の変化

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※ YPWOはプレコンサート〜第2回定期演奏会(30曲)の実績。神奈川・関東のデータはウェブ上に公開されている演奏会プログラムをAIが収集・分析したもの。

このグラフで注目すべき点は3つあります。

  1. 吹奏楽オリジナルが神奈川(34.9%)より関東全体(42.2%)で高い
  2. 神奈川はポップス・映画系が関東平均より高い
  3. クラシック編曲も関東全体でわずかに高め

最も目を引く変化は、吹奏楽オリジナルの比率が関東全体で上昇した点です。その主な要因は東京のデータにあります。東京の吹奏楽オリジナル比率は51.8%と突出しており、クラシック編曲も18.8%と高水準です。

なぜ東京はオリジナル比率がこれほど高いのか。背景には、東京特有の「吹奏楽コンクール文化」があると考えられます。全国大会を目指すコンクール団体が多く、大学バンドや専門的な指導者・プロ奏者との接点も豊富なため、吹奏楽オリジナルや高難度のクラシック編曲(18.8%)を中心に据える団体が自然と多くなるのではないでしょうか。

一方、神奈川がポップス・J-POP(20.6%)や映画・ミュージカル(18.1%)の比率が比較的高い背景には、市民バンド文化の土台があると思われます。コンクール参加よりもイベント・地域密着型の演奏機会を重視する団体が多く、聴衆に親しみやすいレパートリーを選ぶ傾向があるのかもしれません。。

よく演奏される曲は変わったか

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※ 同一団体の複数公演は1回にカウント。「たなばた」は「The Seventh Night of July」名義での演奏を含む。関東7都県のうち栃木・群馬はデータ未収録のため除外。3回演奏の曲はさらに約15曲。

上位曲に吹奏楽オリジナルが多い結果に、関東の吹奏楽団のレパートリーの傾向がよく表れています。最多は「序曲『春の猟犬』」(アルフレッド・リード)の10演奏会で堂々の1位。続く「たなばた」(酒井格)が9演奏会、「吹奏楽のための第一組曲」(ホルスト)が5演奏会で並んでいます。アルフレッド・リードは関東全域でも演奏数が多い作曲家であり(名寄せ後で39演奏会)、久石譲(23演奏会)を大きく上回って首位に立っています。

神奈川の調査では「久石譲」と「アルフレッド・リード」が各17〜19演奏会でトップを争っていましたが、関東全体ではリードが39演奏会で単独首位に大差をつけています。コンクール文化の強い東京でリードの曲がよく演奏されることが、この変化の背景にあると考えられます。一方、久石譲の人気もエリアを超えて一貫しており、23演奏会で2位につけています。

変わらないこと:YPWOのブルーオーシャン

神奈川のみの分析で見えていたことが、関東5都県でもおおむね確認できました。YPWOの代表曲──Take the A Train、On the Sunny Side of the Street、September──は168演奏会・984曲の中でほとんど登場しません。「A列車で行こう」が1演奏会で確認できましたが、単発のアクセントとしての組み込みであり、4演奏会以上の定番曲には遠く及ばず、レパートリーの傾向として定着しているとは言えない水準です。

吹奏楽オリジナル0%、ポップス・ジャズ・ラテンに特化した選曲──少なくとも今回のデータ(168演奏会・984曲)の範囲では、このポジションをメインコンセプトとして掲げる団体は確認できませんでした。かなり珍しい立ち位置であり、範囲を広げるほどその輪郭がはっきりしてきます。

まとめ

エリアを関東5都県(168演奏会・984曲)に拡大しても、基本的な傾向に大きな変化はありませんでした。吹奏楽オリジナルが全体の4割以上を占め、ポップス・映画系が続く構造は変わらず。ただし東京のデータが加わることで、吹奏楽オリジナルとクラシック編曲の比率がやや高まる傾向が見られました。

今後は調査データをさらに拡充し、都県別の特色や経年変化にも迫っていきたいと考えています。

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