#009 関東の吹奏楽団でよく演奏されるJ-POP、ランキング発表

最新J-POPの「YOASOBIメドレー」が単独首位。半世紀前の洋楽「カーペンターズ・フォーエバー」と、最新ヒット「ライラック」が同率2位で続きます。 関東の吹奏楽団がどんなポップスを演奏しているのかを集計してみたら、最新ヒットと1970年代の洋楽がランキング上位に同居する、ちょっと不思議な結果になりました。

前回まで(#006#007#008)、関東5都県の吹奏楽団レパートリーをジャンル構成・作曲家の2つの角度から見てきました。今回はその中から「ポップス・J-POP」カテゴリに絞り、どんな曲が何回演奏されているかを掘り下げます。

ポップス・J-POPは全体の15.4%

168演奏会・984曲のうち、ポップス・J-POPカテゴリは152曲・15.4%を占め、クラシック編曲(14.7%)・映画・ミュージカル(13.9%)とほぼ並ぶ第2位グループに位置します。吹奏楽オリジナル(42.2%)とは大きな差がありますが、「聴衆に身近な曲を届ける」枠として、多くの楽団がプログラムに取り入れていることがわかります。

なお、このカテゴリには純粋な日本語ポップスだけでなく、カーペンターズやグレン・ミラーのような洋楽オールディーズ、演歌・昭和歌謡、ディスコクラシックなども含まれています。吹奏楽団の実態として「幅広い耳なじみのある曲をまとめたジャンル」と捉えるのが実情に近いでしょう。

ランキング:YOASOBIメドレーが単独トップ、カーペンターズとライラックが同率2位

同一団体の複数公演は1回にカウントし、2団体以上が演奏した曲を集計しました。

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「YOASOBIメドレー」が4団体で単独トップ。「カーペンターズ・フォーエバー」と「ライラック」(Mrs. GREEN APPLE)が3団体で並びます。2団体では情熱大陸、グレン・ミラー・メドレー、アイノカタチなど8タイトルが続きます。

なぜこの3曲が複数団体で選ばれているのか、少し考えてみます。

  • YOASOBIメドレー:現代ヒットとしての知名度に加え、若年層や子ども連れの聴衆にも届きやすい。複数の都県にまたがって演奏されており、世代を超えたYOASOBI人気の広さがそのまま表れています。
  • カーペンターズ・フォーエバー:中高年層への訴求力が強く、メロディがはっきりしているため吹奏楽編曲との相性も良い。半世紀近く前の楽曲ですが、編曲資産が豊富で、安定して取り上げやすい曲です。
  • ライラック(Mrs. GREEN APPLE):2024年のヒット曲で、アニメタイアップを通じて若年層を中心に幅広く浸透しています。「いま耳に届いている曲」を取り入れたい楽団にとって、有力な選択肢になっていると考えられます。

共通するのは「世代を超えて届く力」を持っている点です。最新ヒットを取り込む軸(YOASOBI・ライラック)と、世代を超えて愛され続ける定番を押さえる軸(カーペンターズ)が、同じランキングに並んでいるのが特徴と言えそうです。

「ライラック」が示す、選曲サイクルの加速

特に注目したいのが「ライラック」(大森元貴作曲)です。アニメ「忘却バッテリー」のオープニングテーマとして2024年にヒットした楽曲が、すでに3団体で演奏されています。

従来の吹奏楽では、ヒット曲が「吹奏楽定番」として定着するまでに数年単位の時間差がありました。聴衆の耳になじんだ頃に、ようやく編曲・出版・演奏という流れに乗るのが一般的なパターンです。しかし現在は、ヒットから間もない楽曲がすぐに編曲・演奏されるようになっています。

これは単なる編曲スピードの向上だけではなく、吹奏楽団側が「今の聴衆の耳」に以前より敏感になっている変化とも読めます。「定番化してから演奏する文化」から、「定番化を待たずに今を追う文化」へ──ランキングの一行は、そうした選曲サイクルそのものの変化を映しています。

「宝島」はなぜランクインしないのか

以前の記事でも触れましたが、「宝島」「オーメンズ・オブ・ラブ」(和泉宏隆作曲・真島俊夫編曲)はこのランキングにほぼ登場しません。ポップス・J-POPカテゴリでは「オーメンズ・オブ・ラブ」は1団体のみ、「宝島」はゼロ件です。

これらはアンコール曲として演奏されることが多く、事前告知されないためデータに反映されにくい構造があります。このランキングはあくまで正式プログラムとして公開された曲の集計で、実際の人気とはズレがありうる点には留意が必要です。

多様性の高さ:大半が1団体のみ

このカテゴリのもう一つの特徴は、少数の定番曲に集中するのではなく、各団体が幅広い曲を選んでいることです。リサーチの言葉では「ロングテール構造が強い」と表現されますが、噛み砕いて言えば「定番への集中が弱く、選曲の自由度が高い」状態です。

ポップス・J-POPカテゴリの152曲を、ユニークなタイトル単位で集計し直すと135タイトル。その分布は次のようになります。

  • 4団体:1タイトル(YOASOBIメドレー)
  • 3団体:2タイトル(カーペンターズ・フォーエバー、ライラック)
  • 2団体:8タイトル
  • 1団体のみ:124タイトル

ではなぜ、こうした構造になるのでしょうか。背景には、吹奏楽オリジナルとポップスでは「定番」が生まれる場所が違うという事情があります。

吹奏楽オリジナルは、コンクール課題曲・出版社の推薦曲・指導者間の口コミなど、吹奏楽界の内部で共有されるレパートリーです。同じ曲を多くの団体が演奏することで「定番」が積み上がっていきます。一方、ポップスは社会全体の音楽文化から選ばれるため、時代・世代・地域・団体カラーによって選曲が大きく分散します。「みんなが聴いている曲」は、社会全体ではむしろ細分化しているのが現状です。

吹奏楽オリジナルが少数の定番曲(春の猟犬、たなばた等)に集中する傾向と対照的に、ポップス枠は「何を演奏するか」の自由度が高く、楽団の個性が出やすいジャンルになっています。吹奏楽オリジナルには定番集中があるが、ポップスは多様化している──この対比は、シリーズ全体の中でも興味深い発見の一つです。

YPWOのポジション

YPWOもポップスを演奏する楽団で、このランキングに登場する「カーペンターズ・フォーエバー」も2025年秋に演奏しました。ただし、ランキング上位の曲との関係を見ると、選曲の軸そのものが少し違うことが見えてきます。

YPWOの演奏会は二部構成で、前半は映画・ドラマ音楽や国内外のポップス、後半はテーマを絞った特集枠という形を取っています。特集枠では毎回テーマを切り替えて深掘りします。一般的な吹奏楽団では一曲単位でしか登場しにくい領域を、まとまった特集として届けるのが特色です。

ポップスの射程も「いま売れている曲」に限定せず、戦前の歌謡曲から昭和の名曲、洋楽オールディーズ、現代J-POPまで幅広く取り上げます。「今ヒットしているか」だけでなく、演奏文化として面白いか・世代を超えて残っているかという観点を重視しているためです。

結果として、一般的な吹奏楽団のポップス選曲とは少し違う傾向になっています。

まとめ

関東のポップス・J-POPランキングでは、YOASOBIメドレーが4団体で単独トップ、カーペンターズ・フォーエバーとライラックが3団体で続く。最新J-POPと半世紀前の洋楽がランキング上位に同居し、「これが定番」と言い切れる曲がない多様性の高さが際立ちます。「定番がない」こと自体が、このジャンルの特徴なのかもしれません。

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