#010 映画・ミュージカル音楽ランキング──どの作品が選ばれているか

吹奏楽のポップスステージで、映画音楽はもはや定番ジャンルです。「とりあえずディズニー」「やっぱりジブリ」という印象は、本当に正しいのでしょうか。181演奏会のデータから実態を読み解きます。

※ 前回までの記事よりデータ数が増えており(181演奏会・1081曲)、曲数や割合の数字が若干異なります。今後も継続的にデータを追加していく予定です。

曲数より「登場する演奏会の多さ」が本質

181演奏会・1081曲のうち、映画・ミュージカルカテゴリは137曲。曲数比率だけを見ると12.7%ですが、実際には89演奏会(49%) に登場しています。ほぼ2演奏会に1回のペースで、どこかのステージに映画やミュージカルの音楽が鳴っている計算です。

曲数の比率より、演奏会への登場率のほうがこのジャンルの存在感を正確に表しています。映画音楽には「初見で伝わる・MCなしでも盛り上がる・世代を共有しやすい」という強みがあります。演奏会のコミュニケーションコストを下げられるジャンルとして、多くの楽団がプログラムに取り入れているのでしょう。

ディズニーの独走

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作品(シリーズ)別に集計すると、ディズニー(36演奏会) が圧倒的な1位。映画・ミュージカルを含む89演奏会の実に40%をディズニーだけで占めます

2位のスタジオジブリ(15演奏会)との差は21演奏会──倍以上の開きがあります。3位以下はレ・ミゼラブル(6演奏会)、オペラ座の怪人(5演奏会)と続きますが、ジブリとの差も大きく、実態は「ディズニー独走、ジブリが遠く追う2位、残りは僅差」という順位表です。

ディズニーはなぜここまで選ばれるのか

ディズニーの36演奏会を内訳で見ると、「ディズニー・ファンティリュージョン!」と「ディズニー・ヴィランズ・メドレー」が各5演奏会で同率1位。続いて「リトル・マーメイド・メドレー」「ノートルダムの鐘」が各3演奏会と続きます。特定の1作品ではなく、複数作品をまとめたメドレー曲が上位を占める点が特徴的です。

ディズニーがここまで選ばれる背景には、吹奏楽との高い相性があります。

  • 良質な吹奏楽編曲が豊富に流通している
  • メドレー形式で1曲にボリュームを出せる
  • 世代を問わず会場全体で共有できる
  • 客席が冷えにくく、MC不要でも成立する

「迷ったらディズニー」という選曲が成り立つのも、こうした安定感があるからです。集客・興行面でも外しにくく、ファミリー層や年配層にも届く。ポップスステージで「安全牌」として機能しやすいジャンルと言えます。

「アラジン」「ラプンツェル」「ライオン・キング」など個別作品も登場しますが、数のうえでは「ディズニーメドレー」系が圧倒的多数。「ディズニー」はひとつの映画ではなく、ブランドごと選ばれているのです。

ジブリは「久石譲サウンド」への愛

2位のスタジオジブリ(15演奏会)の特徴は、曲のバリエーションが広く分散していることです。「千と千尋の神隠し」「ハウルの動く城」「紅の豚」「風の谷のナウシカ」「魔女の宅急便」「天空の城ラピュタ」……と、ほぼ全作品が満遍なく選ばれており、突出した定番曲はありません。

ジブリ人気の根底にあるのは「作品ブランド」だけでなく、久石譲サウンドとの相性ではないかと思います。

木管が主役になれる旋律線、強奏でも崩れない和声、ノスタルジーを刺激するメロディ。

これらは吹奏楽編成で非常に映えます。さらに初級から上級まで編曲資産が豊富で、中規模のアマチュア楽団でも無理なく取り組める。特定のレベルの楽団だけが選べる音楽ではない点も、広く選ばれる理由のひとつでしょう。

「これが吹奏楽のジブリ定番」という一強はなく、各楽団が好みの作品を選んでいる──それがジブリの選ばれ方です。

ミュージカル部門:「ポップスなのに真面目にやれる」枠

ミュージカル系に絞ると、レ・ミゼラブル(6演奏会) がトップ。続いてオペラ座の怪人(5演奏会)ウエスト・サイド・ストーリー、ウィキッド、ミス・サイゴン(各3演奏会) と続きます。

レ・ミゼラブルやオペラ座の怪人には、吹奏楽界特有の魅力があります。シンフォニックに鳴らせる・大編成で映える・ドラマ性が強い──コンクールで培ったサウンドとの相性が非常に良いのです。「ポップスステージに置きながら、本気で吹ける」という点で、吹奏楽団にとって都合の良いジャンルと言えます。ディズニー・ジブリが「つなぎ・親しみやすさ」の枠なら、こちらは「大曲・見せ場」の枠です。

ランキングに登場する「ハリー・ポッター(4演奏会)」は厳密にはミュージカルではありませんが、大編成映えという点でレ・ミゼ・オペラ座と同じプログラム上の機能を担っています。

まとめ──ディズニーは別格、でも「何を選ぶか」は楽団の個性

映画・ミュージカルは関東の吹奏楽演奏会のほぼ2回に1回(49%)に登場するジャンルですが、その中ではディズニーが別格の存在感を持っています。

それでも「ディズニーを選ぶ」だけでは個性は出ません。「ヴィランズメドレー」か「プリンセスメドレー」か、「ファンティリュージョン」か「トロピカルメドレー」か──選択の中に楽団の色が滲み出ます。ジブリも同様で、「ナウシカ」と「アリエッティ」では聴こえてくる空気がまったく異なります。

映画・ミュージカルは「親しみやすいだけ」のジャンルではなく、選択そのものが演奏会のコンセプトを語るジャンルなのかもしれません。

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