横浜を拠点にする吹奏楽団なら、選曲にも何か「横浜らしさ」が表れるのでしょうか。
そこで、市内33団体がこの5年ほどに演奏した延べ550曲を集め、全国のデータと比べてみました。ところが、複数の楽団に共通する「横浜らしい選曲」は、ほとんど見つかりませんでした。
では、選曲における地域らしさとは、いったいどこに表れるのか。調べていくと、市全体の傾向とは別のところに、一つの答えが見えてきました。
YPWOラボではこれまで、神奈川県、関東5都県、全国へと対象を広げながら、市民吹奏楽団の選曲を調べてきました。今回は逆に、YPWOの地元である横浜市だけに絞って見ていきます。
「横浜の楽団」をどう数えたのか
数えたのは「横浜で開催された演奏会」ではなく「横浜を拠点とする楽団」です。横浜のホールには市外の楽団も数多く出演するため、会場で数えると別の集合になります。YPWOが整備している全国の吹奏楽団データベース(約1,500団体・2026年8月時点)から横浜市を拠点とする団体を抽出すると、82団体が該当しました。
82団体のうち、曲目を確認できた33団体・107演奏会・延べ550曲(2021〜2026年、9割近くは2023年以降)を集計しました。重複を除くと393曲です。なお、YPWO自身は含めていません。抽出や集計の細かな条件は、末尾の「集計方法と留意点」にまとめています。
横浜は全国よりポップス・J-POPが多かった
延べ550曲のうちカテゴリを分類できた537曲を、全国データ(同基準で分類できた6,980曲)と並べます。
| カテゴリ | 横浜(延べ537曲) | 全国(延べ6,980曲) |
|---|---|---|
| 吹奏楽オリジナル | 31.5% | 39.5% |
| ポップス・J-POP | 23.3% | 12.8% |
| クラシック編曲 | 15.3% | 15.8% |
| 映画・ミュージカル | 14.7% | 16.8% |
| ゲーム・アニメ | 6.0% | 7.7% |
| ジャズ・ラテン | 4.8% | 3.1% |
| 行進曲 | 4.3% | 3.9% |
※少数カテゴリを省略しているため合計は100%になりません。

吹奏楽オリジナルが約8ポイント低く、ポップス・J-POPが約10ポイント高い。数字だけ見ると「横浜はポップス寄り」に見えます。
ただし、1団体が差を大きくしていた
ここで気をつけたいことがあります。今回、曲目まで確認できたのは33団体で、演奏曲数も団体ごとに同じではありません。曲数ベースの集計では、たくさん演奏する団体の色が全体に濃く出ます。実際、最も曲数が多かったのは、地域での依頼演奏を数多く行っている1団体(7演奏会・延べ71曲)で、これだけで全体の1割強を占めます。歌謡曲やJ-POPを中心に据えたこの団体を試しに除外して再集計すると、差は大きく縮まりました。
| カテゴリ | 横浜全体(延べ537曲) | 最多の1団体を除外(延べ466曲) | 全国(延べ6,980曲) |
|---|---|---|---|
| 吹奏楽オリジナル | 31.5% | 34.8% | 39.5% |
| ポップス・J-POP | 23.3% | 18.9% | 12.8% |
| ジャズ・ラテン | 4.8% | 2.6% | 3.1% |
ただし、この1団体を除いても、傾向そのものが消えるわけではありません。吹奏楽オリジナルは全国より約5ポイント低く、ポップス・J-POPは約6ポイント高いまま。曲数の多い団体に引きずられない見方として、33団体それぞれのジャンル比率を同じ重みで平均しても、オリジナル28.5%(全国の団体平均は42.5%)、ポップス・J-POP21.8%(同11.8%)と、方向は変わりません。
33団体というサンプルから「横浜全体の地域特性」と断定することはできません。それでも、吹奏楽オリジナルが少なく、ポップス・J-POPが多いという傾向は、どの数え方でも変わりませんでした。データが増えたら、改めて検証する価値のある傾向です。
複数の楽団で重なるのは全国の定番曲だった
では、曲そのものはどうでしょう。393曲のうち、2団体以上が演奏していた曲は38曲。1割に届きません。残りの355曲は、どこか1つの楽団だけが選んだ曲です。重なった場合でも最多は4団体まで。3団体以上が重なった11曲を、全国での演奏会数ランキングとあわせて挙げます。
| 曲名 | カテゴリ | 横浜での演奏団体数 | 全国順位 |
|---|---|---|---|
| 吹奏楽のための第一組曲 | 吹奏楽オリジナル | 4団体 | 9位 |
| 祝典のための音楽 | 吹奏楽オリジナル | 4団体 | 9位 |
| ウエスト・サイド・ストーリー・セレクション | 映画・ミュージカル | 4団体 | 78位 |
| たなばた | 吹奏楽オリジナル | 3団体 | 2位 |
| エル・カミーノ・レアル | 吹奏楽オリジナル | 3団体 | 2位 |
| さくらのうた | 吹奏楽オリジナル | 3団体 | 4位 |
| アルヴァマー序曲 | 吹奏楽オリジナル | 3団体 | 12位 |
| 陽はまた昇る | 吹奏楽オリジナル | 3団体 | 17位 |
| 風紋 | 吹奏楽オリジナル | 3団体 | 29位 |
| ルパン三世のテーマ | ゲーム・アニメ | 3団体 | 78位 |
| ハリー・ポッターと賢者の石 | 映画・ミュージカル | 3団体 | 204位 |
11曲中8曲は全国トップ30の常連で、残る3曲も映画・アニメの定番曲です。2団体で重なった27曲にも、横浜との明確な関係を持つ曲はありませんでした。横浜の楽団同士で重なる曲は、全国でも広く演奏されているレパートリーでした。
横浜に根づいた曲はあったのか
今回集めた全国データでは、横浜の楽団でしか確認できなかった曲も、実は珍しくありません。393曲のうち190曲がそれに当たります。ただし大半は、1つの楽団が1回の演奏会で取り上げただけの曲です(2演奏会以上で演奏されたのは25曲)。顔ぶれもホルストの組曲や歌謡曲など、横浜という土地とは関係のない曲がほとんどでした。
その中で一つだけ、横浜との明確な結びつきがあり、同じ楽団によって複数年にわたり演奏され続けていた曲があります。「横浜市歌」です。1909年(明治42年)に制定され市民に歌い継がれてきたこの曲を、市内の1楽団が定期演奏会などで4演奏会にわたり繰り返し演奏していました。今回の全国データを見渡しても、横浜市歌を継続的にレパートリーにしていた楽団はこの1団体だけです(ほかに確認できたのは、開港祭に合わせた期間限定の演奏企画による1件のみ)。
地域らしさは、楽団がつくる
今回の集計からは、市内の楽団に広く共有された「横浜らしい選曲」は確認できませんでした。複数団体で重なる曲の多くは全国的な定番曲で、横浜の楽団も、基本的には全国共通の吹奏楽文化の中で選曲しています。
ただし、横浜市歌を演奏し続けている楽団が一つありました。これは横浜全体の傾向ではなく、1つの楽団が地域の曲をレパートリーとして残し続けてきた結果です。地域らしさは、所在地から自然に生まれるものではない。楽団が何を選び、演奏し続けるかによってつくられる──横浜だけに対象を絞ったことで、むしろそのことが見えてきました。
YPWOの選曲は横浜の中でどう見えるか
では、YPWO自身はどうでしょうか。2024年以降の4公演で演奏した36曲を、横浜側の393曲と曲名で照合すると、完全一致は3曲でした。英語表記とカタカナ表記の差のような表記の違いを同じ曲として数えると7曲、ハイライト版・セレクション版といった版の違いの可能性まで含めても、重なりは最大11曲です。36曲の3分の2以上は、この5年余りで横浜の他の楽団が取り上げていない曲でした。もっとも、ここまで見てきたとおり横浜の楽団同士はもともと重なりが小さく、これはYPWOだけが特別なわけではありません(横浜・神奈川の楽団との位置関係はYPWOラボ006「神奈川のアマチュア吹奏楽団は何を演奏しているか」もご覧ください)。
YPWOの選曲は、吹奏楽の定番曲や団員の「やりたい曲」からではなく、来場者アンケートと公演ごとのテーマを起点に組み立てています。YPWOもまた、横浜で活動する一つの楽団として、自分たちなりのレパートリーを積み重ねています。
補足:作曲家の顔ぶれはどうか
作曲家を確認できたのは延べ369曲(67%)にとどまるため参考値ですが、全国データの上位5人について、その作曲家の曲が演奏された演奏会の割合を比べます。
| 作曲家 | 横浜(107演奏会中) | 全国(1,394演奏会中) |
|---|---|---|
| アルフレッド・リード | 8.4% | 15.9% |
| フィリップ・スパーク | 10.3% | 13.3% |
| 久石譲 | 11.2% | 9.2% |
| 真島俊夫 | 7.5% | 8.0% |
| アラン・メンケン | 15.9% | 7.2% |
全国データで1位・2位のリードとスパークは、いずれも横浜での登場率が全国を下回ります。リードは全国の半分ほど、スパークは8割弱。逆に、ディズニー音楽のアラン・メンケンは2倍以上です。全国上位の吹奏楽オリジナル作曲家の登場率が低い点は、本文のジャンル構成の傾向とも符合します。
集計方法と留意点
- 本記事は個々の楽団を評価・比較することではなく、横浜全体の選曲傾向を調べることを目的としているため、団体名は記載していません。
- 団体の抽出では、団体名が「横浜」の漢字表記だけでなく「よこはま」「ヨコハマ」「Yokohama」のこともあるため、表記の揺れを吸収したうえで、練習場所・活動地域の情報から横浜拠点と確認できた団体を数えています。活動地域を公開していない楽団は含まれていません。
- ウェブで公開された情報が元のため、アンコール曲は反映されにくい傾向があります。
- 「延べ曲数」は、同じ曲を別の演奏会で演奏した場合も1曲ずつ数えたものです。
- 比較に使う全国データ(延べ7,590曲)は関東が約7割を占めます。また、全国データには横浜の演奏曲(全体の約7%)も含まれているため、両者は完全に独立した集計ではありません。
ポップスやジャズ・ラテンを中心とした選曲に興味のある方は、ぜひ一度練習を見学してください。
